2026年農業用マルチが不足?価格高騰の理由とは

2026年2月末に始まったアメリカによるイランへの攻撃以降、原油相場は大きく変動しています。
さらに日本では、円安による原材料価格の上昇に加え、人手不足による人件費の高騰、運賃の高止まりなどが重なり、農業用資材の価格上昇が続いています。 一部の資材では、価格だけでなく供給にも影響が出始めています。
特に、原油価格の影響を受けやすい農業用マルチは、これからの価格や供給状況が気になる資材のひとつです。
今回は、原油価格や農業用資材価格のこれまでの推移を振り返りながら、農業用マルチの価格と供給が今後どうなっていくのか、生産者の立場から考えてみたいと思います。
イラン情勢で再び上昇した原油価格
2026年2月29日、アメリカがイラン国内への空爆を開始。3月2日にはイラン革命防衛隊がホルムズ海峡の通行禁止や攻撃について警告し、事実上、ホルムズ海峡の封鎖が始まりました。
6月中旬には停戦合意が交わされたものの交渉は難航し、7月12日には再び封鎖措置が取られるなど、不安定な状況が続いています。
日本は原油の中東依存度が非常に高いため、中東情勢の悪化は原材料価格にも大きな影響を及ぼします。
2026年初め、WTI原油価格は1バレル65ドル前後で推移していました。 ところが、アメリカによるイランへの空爆後、WTIは一時100ドルを突破。3月末には110ドルを超える場面もありました。
その後、停戦への期待から6月には70ドル近辺まで下落したものの、情勢が再び悪化すると90ドルを超え、その後も80ドル台という高い水準で推移しています。 年初と比較すると、およそ30%の上昇です。
さらに、2027年2月限のWTI先物も8月3日時点で72.74ドル。現在よりは低い水準ではあるものの、年初の60ドル台と比べれば依然として高く、原油価格がすぐに以前の水準へ戻るとは考えにくい状況です。

2020年を100とした場合、消費者物価指数の上昇が10数%であるのに対し、農業生産資材指数は30%を超え、肥料は40%以上上昇しています。 つまり、一般的な物価上昇以上のスピードで、農業者の生産コストが増加しているということです。 一方で、増加した生産コストを農産物の販売価格へ十分に転嫁できているとは言い難く、農業者にとって厳しい状況が続いています。
ここ数年を振り返ると
2021年
コロナ禍からの経済回復に伴い、原油や原材料価格がじわじわと上昇し始めた年。
2022年
ロシアによるウクライナ侵攻、急激な円安、原油高が重なり、農業資材価格が一気に上昇しました。
2023年
国際情勢の緊迫化と円安の影響が続き、多くの原材料価格が高水準となった非常に厳しい年でした。
2024年
一部資材ではわずかに価格が下がったものの、全体としては高止まりが続きました。
2025年
国際情勢の不安定化と円安が続き、農業生産資材価格はさらに高い水準へ。
そして2026年、そこへ再び原油高という大きな要因が加わっています。
なぜ今、農業資材が不足しているのか?
今回もう一つ問題となったのが、原油価格が急騰した「時期」です。
イラン情勢が悪化したのは2月末。
この時期は、水稲用の肥料や農薬、夏作用のマルチなどを卸売業者が農協や生産者へ配送している時期にあたります。
さらに3月の年度末を控え、メーカーや卸売業者にとっては年間でも在庫が少なくなりやすいタイミングでした。
一般的に、秋冬用の資材や肥料の予約が本格化するのは3~5月頃です。
そこへWTIが100ドルを超える原油高が発生しました。
「秋に使うマルチが手に入らないのではないか」 「さらに値上がりするのではないか」
そう考えた生産者や卸売業者からメーカーへ注文が集中しました。
中には、短期間で1年分以上に相当する注文を抱えたメーカーもあったようです。
その結果、
「新規受注の停止」
「前年実績を基準とした受注制限」
「秋渡し分の価格は未定」
といった対応を取るメーカーも出てきました。
特に深刻なのが「農業用マルチ」
さまざまな農業資材の中でも、今回特に難しい状況に置かれているのが農業用マルチです。
マルチは雑草対策、地温・土壌水分の管理、作業の省力化など、安定した栽培には欠かせない資材です。
ところが、マルチには非常に多くの規格があります。
黒、透明、白、シルバー、グリーンといった色の違いだけでなく、90cm、115cm、135cm、150cm、180cmなど幅もさまざま。
さらに穴あきマルチの場合は、作物によって穴の大きさ・株間・条間まで異なります。
地域、作物、定植方法、使用するマルチャーなどによって、必要な規格が細かく変わるのです。
ニンニク栽培でも同様で、私たちが使用するマルチは主に115cm幅や135cm幅です。
「多品種・受注生産」が供給不足につながる
農業用マルチは、生産者のさまざまな要望に応えるため、多種多様な規格が作られるようになりました。
現在では、
大手メーカーがマルチそのものを製造し、地元の中小メーカーなどが穴あけ加工を行う
という分業方式も一般的です。
そのため、穴あきマルチはある意味でオーダーメイドに近い受注生産品となっています。
普段であれば効率の良い仕組みですが、一度注文が集中すると状況が変わります。
大量生産される単一商品とは違い、さまざまな規格を順番に製造・加工しなければならないため、生産が追いつかなくなるのです。
さらに今回は原油高があります。
マルチの原材料価格そのものが上昇しているため、メーカーにとっても大量に原料を仕入れることは、高値の在庫を抱えるリスクにつながります。
「注文があるから増産すればいい」という単純な話ではないのです。
菜園おおのはらの取り組み
菜園おおのはらでは、厳しい資材供給の状況を受け、長年の種子用ニンニク輸入で築いてきた中国とのネットワークを活かし、優良メーカーから農業用マルチを直接仕入れるルートを構築しました。2026年8月には、初めてのコンテナが日本に到着します。
提携メーカーでは、原料からマルチの製造、センターマーク印刷、穴あけ、巻き取りまでを一貫して行える最新設備を導入。10ラインを同時稼働でき、それぞれ異なる規格にも対応できます。バージン原料100%を使用し、最短約2週間で製造、日本への輸送を含めても約20日での供給が可能です。今後は生分解マルチの取り扱いも検討しています。
種子用ニンニクの輸入と同じく、今回の取り組みも「農家仲間の役に立ちたい」という思いから始まりました。資材調達が厳しい今だからこそ、安定した供給につなげていきたいと考えています。
今後の供給見通し
現在の受注残は秋以降徐々に解消し、年末頃には落ち着くと見込まれています。一方、秋冬用マルチは9〜12月が需要のピークとなるため、10月頃まではサイズや色によって入手できない、穴あけ加工が間に合わないといった可能性があります。
農協や卸売業者へ予約している場合でも、予定した納期・価格で確実に納品されるかは不透明な状況です。年末から年明けにかけては供給が安定してくると予想されています。
マルチの価格は今後どうなる?
今後のマルチ価格は、昨年より3割程度の値上がりを予想しています。ただし、農業資材は地域や購入先による価格差が大きく、場所によっては4割近い値上がりとなる可能性もあります。
年末から年明け以降は供給が落ち着き、価格も下がる可能性があります。しかし、円安や製造・輸送コストの上昇を考えると、原油価格が70ドル台で安定しても、値下げ幅は1割程度にとどまると見ています。
つまり現時点では、「昨年より約3割値上がりし、そこをピークに年末以降1割程度下がる」というのが私の見立てです。
もちろん価格が下がる保証はなく、資材高は来年以降も農業者にとって大きな課題です。だからこそ菜園おおのはらでは、少しでも安定した価格と供給につなげられるよう、新たな調達ルートづくりに取り組んでいきます。